◆両親から受け継いだもの、わが子に残したいもの
あなたが、ご両親から受け継いだものはなんですか?
受け継ぐと言うほど大げさなものではありませんが、私の母は、自分が使わなくなったアクセサリー類をぽんと譲ってくれる人です。私が結婚したときには、「ひとつ持っておくといいわよ」と言って、小粒のパールネックレスを譲ってくれました。
ただ、このネックレス、ケースを紛失してしまっているようなのです。母は、その辺りにあった社名ロゴ入りの古封筒に、ネックレスを放り込んで渡してくれました。高価なものではないとは聞いていますが、それにしても、さすがに無頓着すぎやしないでしょうか。
-それでは、
あなたが、お子さんに残したいものはなんですか?
◆「オモイバコ」の姿は、家族が一緒に過ごした時間の軌跡
つみ木家具店の「オモイバコ」は、もともと、初孫の誕生を喜ぶご夫婦からの依頼から生まれたものだそうです。お孫さんの思い出の品物をしまっておくための、小さな宝箱。なるほど、箱そのものも特別にしたいというお気持ちは、とてもよくわかります。
木箱の本体は、主に無垢のブナ材。ねじや釘を一切使わず、木組みで組み立てたシンプルで端正なたたずまいの小箱です。無塗装の表面は、きめの細かいブナの木肌そのままで、滑らかな心地よい仕上がりです。
さて、中には何を入れましょうか。たとえば、大切で唯一無二の記念品ではありますが、置き場所にはちょっと悩んでしまうもの……、へその緒や、はじめて切った髪の毛、はじめて抜けた小さな歯など。これらの特別な品々を、失くさないようまとめて保管しておくためにもぴったりです。
「オモイバコ」は、思い出の品物をしまった木箱の上から、さらにガラスの箱を重ねる二重構造のしくみです。木箱とガラスの間には、思い出の写真などを飾ることができます。
つみ木家具店を夫婦で営む上田さん夫妻は、無垢材にこだわった家具を製作しておられます。そのこだわりの理由を、お聞きしてみました。
「無垢の木の家具は“一生もの”です。年月を経て使い込んでいくほどに、光や空気にさらされ、また木の内部から油分が染み出すなどして、ツヤと深みのある風合いに変わっていきます。その意味で、家具は、私達の工房で組み上がった時点が完成のときではないんです。使ってくださる方と一緒に生活して歳を重ねる中で、家具も、少しずつ完成されていくものだと考えています」。
無垢材の小さな木箱「オモイバコ」も、同じように、持ち主とともに歳を重ねて時間を刻んでいきます。家族が過ごす時間の傍らで、家族の思い出の品を抱きながら。
リビングの定位置に、こどもの思い出の品とともに写真を一枚飾る。
そんな何気ない親の行動ひとつにも、深い愛情がこめられていることに、こどもたちは、いつ気付いてくれるのでしょうか。
大切な記念の品物だからこそ、それにふさわしい宝箱を。ずっと長く、愛着を持って使えるものを。一緒に過ごした年月の深みも、記念として手元に残せるようなものを。
そんな親の気持ちにこどもが気付いてくれるのは、きっと、今の家族が過ごしている時間のずっと先にある、遠い未来なのでしょう。なんだか報われないなあ、と思う反面、いつか、このオモイバコに孫の写真を飾るときが来るかもと想像するのも、ちょっぴり楽しみなことではあります。